祭囃子が遠く響く黄昏時、彼女は濡れた制服の裾を指で摘まみながら僕の部屋に上がった。
うつむきがちで、言葉少なな彼女は望月風香。僕の一年後輩で、黒髪に地味な眼鏡をかけたその姿は、美術部の静物画のようにどこか湿度を含んでいた。
けれど、アニメの話をすると彼女の瞳は突然光を帯びる。趣味が交差した瞬間、僕たちは“部活”でも“サークル”でもなく、“個”という名称のオタクして交わることを知ったのだった。

二人きりの雨宿り、沈黙がほどけていく夜
大学の文化祭準備が縁でポスター配布の担当となった僕と風香。
はじめは緊張と敬語の応酬だったが、共通の趣味がふたりの距離を自然と埋めていった。そして、文化祭帰りの雨。肩を並べて小さな傘に身を寄せ、僕のアパートに雨宿りに立ち寄ったとき、風香はびしょ濡れの制服を脱ぎ、アニメ柄のTシャツとショーツ姿になった。
「こんなの…エロ同人で読んだ展開だよね」
頬を紅潮させながら、彼女は自嘲気味に笑った。
その言葉の裏にあるものを、僕はすぐに察した。彼女は読んできた性を、いま誰かと体験する性へと変えたかったのだ。羞恥と期待の間に咲く、一輪の倒錯的な花がそこに咲いていた。
オタク趣味と性の交錯、美術室のスケッチのように
風香はむちっとした肉づきの、豊かな肢体をしていた。けれどその柔らかさは、彼女の性格と同じく他人の視線に対してやや閉じ気味だった。
「…知識だけはあるけど⋯。実技は教えてもらっていい?」
そんなオタク特有の幻聴という、彼女の願いが聞こえたような気がした。
その夜、彼女の肌は何よりも素直だった。好きな作家の同人誌をなぞるように妊娠を願うセリフさえも、どこか幻想めいていて演技と真実の狭間で震えていた。
オタク特有の過剰な表現が実体として彼女の口から零れると、それは滑稽でも下品でもなく、むしろ愛おしかった。彼女はエロくなっていく過程そのものを、自らの身体に刻み快楽とともに受け入れていったのだ。
羞恥と共鳴に潜む倒錯の美学
この物語に流れる倒錯は、性愛そのものにあるのではない。
エロ同人で育てられた性知識を実際の関係の中でどう立ち上げていくかという、古代から現代でも息づく思春期特有の性衝動でもある。
知識が豊富な風香とやや臆病な齋藤。
ふたりが肌を重ねながら確かめていく趣味と肉体の相性は、まるで美術部のクロッキーのように、未完成ながらも美しい。むっちりとした肉体はフェティッシュでありながら、それを受け止める齋藤の視線は常に敬意と慈しみに満ちている。
こうした感情の繊細な交錯こそ倒錯のなかに潜む誠実であり、この作品が耽美的でありながらも、どこか切実なエロスを放っている所以である。
「後輩オタク友達JKが可愛すぎるもんでっ!」の作者名は虹照先生
作品名は「後輩オタク友達JKが可愛すぎるもんでっ!」、作者名は虹照先生。
手の届く現実にこそ潜む淫靡な真実。オタク趣味の二人が交わるさまを想像するたび、静かな昂ぶりが、こちらの幻想を甘く焦がしてゆく。
そんな絵柄が好き。