愛し合うふたりのあいだにあるのは、言葉ではない。
空気の密度、肌の湿り、まつげがふれあう距離で交わされる沈黙の会話だ。オニヅカバーガーの短編集[剛毛な彼女と…]は、その沈黙に耳を澄ませ恋人たちの間に流れる官能の温度を丁寧に描き出す。

剛毛な彼女と…のサークル名はオニヅカバーガー
作品名は「剛毛な彼女と…」、サークル名はオニヅカバーガー。
彼が陰毛で悩む剛毛である彼女にクンニをするとき、膣のなかに舌をねじ込むのはきっとなにかのメタファーだろう。
小さな秘密を抱いた彼女の下着
彼女はツインテールで、あどけなさの中にほのかな色気を隠している。彼氏からもらったTバックの下着を手にしながら、彼女は鏡の前で少しだけためらう。
理由はひとつ。
彼女の身体には、柔らかな森のように豊かな陰毛があったからだ。
でも彼は、その森ごと彼女を愛した。笑いながら後ろから抱きしめ、耳元で「似合ってるよ」と囁いた。下着はもうどうでもよくなった。彼の声が彼女の内側を溶かしていった。
自慰がバレないように寝たふりをした夜に
ある夜、彼女は眠ったふりをした。自慰の余韻を残したまま、ひとりの時間を抱いていたベッドに彼が帰ってくる。彼は何も言わず、ただそっと横になりゆっくりと彼女の脚のあいだに口を埋めた。
「もう、バレてるんだ」
そんな気配を彼女は背中で受け止めながら、眠ったふりを続ける。彼の舌が彼女の静かな森をゆっくり探り、奥の奥まで雨のように濡らしていった。
音のない会話熱のあるキス
彼女の密やかなコンプレックスを、彼は決して否定しない。ただ受け止め、舌をねじ込むようにして奥の柔らかさを味わう。
その愛撫は決して荒々しくない。まるで真夏の夜に流れるバラッドのように、静かでしかし熱を帯びている。ベロチューもまた、その延長線にある。濡れた唇と唇が触れ合うとき、彼女はすべてを許し彼はすべてを抱いた。
陰毛が剛毛であることは性愛に対してただの記号に過ぎない
この作品には派手な仕掛けはない。
ただ毛の濃さを気にする彼女に、舌でやさしく語りかける彼氏の姿がなにより官能的だった。そこには「気にしないでいいよ」という表面的な言葉ではなく、「君の全部を、ぼくは知っている」という無言の愛があった。
性というのは、突き詰めれば信頼の延長線にあるのかもしれない。僕はそう思いながら、この小さな短編集を何度も読み返している。